PKを待ちながら

2014年公開のインド映画『PK』のネタバレです。『きっと、うまくいく』のランチョーを演じ、『チェイス!』のサーヒルを演じた「国宝級」俳優、アーミル・カーンの主演作です。鑑賞済みの方、ネタバレOKの方はどうぞ。未見の方は10月29日全国公開をお待ちください!

考察

『PK』vs『ラーマーヤナ』

『ラーマーヤナ』という物語(神話)があります。1800年くらい前のインドで成立したという長い長いお話です。話の途中でやたらに小咄が盛り込まれているためストーリーが追いにくいのですが、簡単にまとめると、

◆人々がラーヴァナという名の暴れん坊に苦しめられる。
◆天界の神様が協議してヴィシュヌ神派遣を決定。
◆ヴィシュヌ神は人間=ある国の王子として生まれ、ラーマと名づけられ、立派に成長する。
◆聖者にこき使われたり、他国の姫シーターと結婚したり、継母にいじめられたりする。
◆ラーヴァナと対決してやっつける。
◆妻シーター、自分の不貞を疑ったラーマに対して抗議の自殺。
◆ラーマ、使命果たしたし、嫁死んだし、人間としての生を終え、天界に戻る。
◆結論:ラーマ=ヴィシュヌ神は偉大なり!

神様が人間として生まれ落ちたり、小咄が盛り込まれたりする構造はインド神話の常套です。これらの長くて入り組んだ物語は、結局のところ、いかに神が偉大で素晴らしい存在であるかの修飾であり、最終的には「神は偉大なり」の一言に集約されていきます。
カタカリやバラタナティヤムなどの古典舞踊を観る機会がありましたら、ぜひ観察なさってみてください。歌って、踊って、ハラワタ引きずり出したり、奇声をあげたり、なんだかんだの末にたいてい最後は神を称える歌詞と仕草で締めくくられます。(イマドキのアレンジだとダンサーのドヤ顔で終わりますが。)

さて、ところで。『PK』も、この構造を踏襲していると見ることができそうです。ある日地球に現れ、学び、恋をし、敵を打ち負かし、小咄を盛り込みつつ、人々を助けて、元のところへ去っていく。
少し違っているのは、その結論となる一文。
PKが名刺サイズの紙に書いた、あの一文。あそこへ向かって2時間半の物語がぎゅーっと進行していく、そんな風に思っています。

瞬きもせず

PKちゃんは、瞬きをしません。メイキング映像のなかで、PKというキャラクターを作り込む試行錯誤が見られますが、そのなかで、「瞬きをしない」という特徴が採用されています。
その結果、なんとも不思議で可愛らしいPKちゃんが誕生しました。(たぶん)慣れないコンタクト(グリーンのカラコン)をはめて、瞬きしないなんて大変だったりだろうなあ…!
瞬きしない、なんてのは映画俳優なら当たり前なんじゃないの、という気もしなくもないのですが、普通の俳優さんが瞬きをしないとどうなるかというと、ジャッグーの「自殺犬ニックー」収録中、隣に立ってたドクターに注目。ずっと瞬きしないんですが…こわいよ!「瞬きしなくて可愛い」のは、アーミルだからこそ、というのがよくわかります。比較対照ありがとうございます。

バイロンのおもてなし

モンゴルを研究フィールドとする言語学者である大学教授の、こんな逸話を聞いたことがあります。ある時、学生達と某湖畔で合宿をしていたのですが、一部の学生がバイトか何かで遅れて合流することになりました。予想以上に到着が遅れ、その合宿所に夜遅く到着したところ、管理人さんに「規定のチェックイン時間を過ぎているから、入館できない」と門前払いをくらい、仕方なく車のなかで一夜を過ごしたそうです。翌朝、学生から事情を聞いた教授、「モンゴルでは旅人を泊めなかったら死刑なんだぞ!」とキレまくったとか。
この話を聞いた時には、合宿所の管理人さんにモンゴルの話をしてもしょうがないだろうに…と腹を抱えて笑ったものですが、いま思うと、教授の意見ももっともかなあ、と。
遊牧民にとっては、雨風をしのぎ夜を過ごす屋根と食料を確保するのは命がけです。宿や食料を求める客人を寛大にもてなすのは、義務であり、美徳でもあります。(参考文献『砂漠の文化』堀内勝、など)

さて、PKを車ではねちゃったバイロン。PKが何も覚えていない様子なので、一瞬、悪い考えが頭をよぎったようですが、結局、PKを楽団に迎え入れて面倒をみます。ラージャスターンの砂漠を旅する楽団としては、そうせずにいられなかったのかもしれません。そんなバイロンに、卵から孵ったヒナが初めて目にしたものを母親として認識するようになついたPK。地球に来てから初めて親切にしてくれ、言葉をかけてくれた人物ですから、バイロンに対する感情的な結び付きは特別だったと思われます。
そんな、大切なバイロンを失ってしまった…。PKの悲しみはどんなに深かったでしょう…。静かに、涙を流し、毅然としてタパスヴィーと対峙し、もう一人の大切な人、ジャッグーを守ったPK。
『PK』、ラストの20分ほどは何度観ても「ほげえぇぇあぁぁぁ」と奇声を発しながら号泣せずにいられません。

詩人ジャッグーの陥ちた罠

ジャッグーが、ジャッグーというキャラクターが、大好きです。
インド映画のヒロインというと、ご先祖様や父親や夫の稼いだ金で買った金糸サリーとアクセサリーを身に纏い、チャラチャラ歌って踊るNEETか主婦が多くて時々げんなりしてしまうのですが、ジャッグーは少々違います。ジャッグーのキャラクターについて、考えてみます。

教育を受けている。ベルギーの大学に留学していました。インド人女子が留学というと、リアル社会では医学一択なのですが、「メディア」を選択したのも好印象です。
欧米風の装い。サリー&ビンディーの保守的装いが決してカコワルイとは思わないのですが、新しいものに挑戦し、受け入れることができるという姿勢の象徴だと思います。どこかのお寺に髪を奉納してきたのかというくらいのショートヘア。シンプルなアクセサリー。ミニスカート(ただしベルギー国内限定)、ジーンズ。
自転車、スクーターを乗りこなす。そういえば、3Idiotsのピアもスクーター乗りでした。「自分の意志と足で遠くへ行くことができる」のは素晴らしい。
社会正義、真実を見つめるジャーナリストである。多くは描かれていませんが、ニュース制作局に就職し、「戦う男、チェリーはどうしたんだ!」と上司に詰め寄っているところを見ると、社会派であろうと考えられます。また、PKの荒唐無稽な話に対して裏付けを取り、筋が通っている、真実であると判断できた時点で受け入れると言う理性を持ち合わせています。
家族を愛し、向き合う。一時的にはパパと対立してしまいますが、もともとはパパ大好きっ子。パパとの和解の道を模索します。
愛をおそれない。楽曲Chaar Kadamで描かれた様子からすると、ためらいなく深く愛し合ったことがわかります。古めの映画だと、ここで妊娠して出産して、女手一つで息子を育てる…、というのが常套ですが。
一人暮らし。ルームシェアでもなく、一人暮らし。お部屋を飾り、植物を育て、PKを迎え入れる。素敵女子です。
詩人である。ハリヴァンシュ・ラーイ・バッチャンのファンであること、詩心の有無でサルファラーズに対する評価が変化すること、酔うと詩を吟じ始めること、最後はPKについての本を出版していることから、ジャッグーは情緒豊かな詩人であることがわかります。詩人が主人公の映画というと、グル・ダットのPyaasaa(渇き)などが思い浮かびます。自由・貧困・退廃・芸術・破滅がミックスした存在であるはずの「詩人」が、ジャッグーのような素敵女子として登場したことは感慨深いです。

さて、かように自由で、自立していて、知的で、完璧な存在のジャッグー。しかしそのジャッグーですら、「間違い電話」の呪縛から逃れることができなかった。「イスラーム教徒は裏切る」というタパスヴィーの言葉に理性を失い、結婚を急ぎ、サルファラーズを信じきれなかった。そのジャッグーの呪縛を解いて救い出したPK。…PKの愛だなあ、と思うのです。

PKの口ぐせ ルール(lool)

アーミル演じるPKは、ボージプリー語を喋っているのですが、「訛ったヒンディー語」という感じなので、ヒンディー語のわかる人であれば、だいたい理解できるようです。ただ、時々、ボージプリー独特の単語も使っていて、ダメな状態を表現するのに、「ルール(lool、लूल)」という単語が頻繁に出てきます。ボージプリー語のコピー元、プルジャリアも使っていたので、彼女の口ぐせなのかもしれません。
マレーシアの映画館やDVDので英語字幕では、この「ルール」は、おおむね「kaput」と訳されていました。私、勉強不足で、この英単語に初めて出会ったのですが、「故障した」とか「ダメになった」という意味だそうです。なお、パンジャービー語でも、同様にこの「ルール」という言葉を使うそうです。
『PK』のいちばん最後は、カメオ出演のランビール・カプールの台詞で締めくくられます。彼もPKから言葉を習ったらしく、ボージプリー語を喋るのですが、その最後の台詞は、「ルール!サーラー!(लूल ! साला!)」です。「サーラー」は、ヒンディー語でたいへんお行儀の悪い言葉で、「shit! fuck!」「クソ!チクショー!」といった意味になります。終盤、涙なしに観られない展開になりますが、最後はこの台詞のおかげで、フフッと笑える仕上がりになっています。
さて、映画のなかで、PKは何回「ルール!」を使っているかな…。
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アーミル・カーン(『きっと、うまくいく』のランチョー、『チェイス!』のサーヒル)のファンです。 アーミル主演、2014年12月インド公開の映画『PK』は日本未公開ですが、ネタバレをブログに書いています。 アーミルとPKに興味のない方は、積極的にブロック、RTブロック、ミュートなどしてくださいね!
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