PKを待ちながら

2014年公開のインド映画『PK』のネタバレです。『きっと、うまくいく』のランチョーを演じ、『チェイス!』のサーヒルを演じた「国宝級」俳優、アーミル・カーンの主演作です。鑑賞済みの方、ネタバレOKの方はどうぞ。未見の方は10月29日全国公開をお待ちください!

考察

PKのラジカセ

PKが地球にやって来て、図らずも最初に手に入れた地球の物体となった、あのラジカセ。股間を隠すためだけの小道具かと思いきや、最後には思わぬ仕掛けが判明します。 
肌身離さず持ち運び、こっそりとジャッグーの声を録音していたあのラジカセですが、PKが携行していないシーンが あります。列車爆破テロでバイロンを失い、TVでニュースを聞き、敢然と「いまこそ行かなきゃならない」と立ち上がってテレビ局へ向かったシーン。PKは、(ニンジン入りの)カバンだけを手に取り、ラジカセを置いて出かけます。
タパスヴィーと対決し、その結果、ジャッグーとサルファラーズの仲を取り持ち、自分は恋破れることがわかっていたのですね・・・。さすがに失恋の瞬間を録音するのはつらいという乙女心でしょう・・・。 

コメディとしての『PK』

そろそろ『PK』日本公開!になるんじゃないかと期待して待っているのですが、そんなニュースは流れてきませんね・・・。日本、来ないのかな・・・。小ネタを書きつつ、良い知らせを待ち続けましょう。

『PK』は宗教風刺だとか、ヒンドゥー教を侮辱しているからボイコットしようとか、良い映画だから免税にしようとか、いやあれはラブストーリーだ(by私)とか、いろいろ言われましたが、「あるあるコント」とお下劣ジョークが炸裂するコメディ映画でもあります。台湾、中国では、さほどでもなかったのですが、インド系の多いマレーシアで鑑賞したときには、老若男女、最初から最後まで観客の皆さんは抱腹絶倒、涙を流さんばかりに笑い転げていました。爆破テロで埃まみれになったPKがちょこんと座っているシーンでも笑いが起きていたのは、正直、ドン引きしましたが・・・。インド人の皆さん、笑いの沸点がかなり低いのに加えて、日ごろから感情の赴くままに生きているので、『PK』はツボにはまりまくっていたようです。

「『PK』はガイジンには理解できないよ」というインド人の意見があって、断じてそんなことはない!!!と思ってはいるのですが、確かに、「あ~そうそう、こういう人、身の回りに必ずいるよねー」という「あるあるコント」的な部分については、ガイジンには直観的には理解しにくいのは事実かもしれません。やたらにお守りの指輪をつけている人、なんとなくみんながお祈りをする石、口を開けば「神に祈れ」と言う人・・・。そしておそらく、PKが訴えた「宗教家が作り出した偽の神ではなく、本当に神を信じるべきだ」というメッセージにしてみても、きっと多くのインド人が、人生のどこかで耳にしたことのある宗教観であるのかもしれません。

ヒラーニー監督の映画は、お下劣ジョークが少なくなく、それゆえに一部の方々は眉をひそめるのですが、実際のところ、もっとも観客が大爆笑に包まれたのは、まさにそのお下劣ジョークの部分でした。
・ダンシング・カー。
インドは結婚年齢低いですし、ベジタリアンが多い割には肉食系だし、日本みたいにラブホテルが充実していないですし(基本的には夫婦でないカップルが同じ部屋に宿泊できない)、もしかしたら日本よりもダンシング・カーに遭遇する確率は高いのかな・・・などと思いますが、どうなんでしょう。
・太っちょ理容師のズボン。
日本だとドリフかガキ使か、というダンスィが大喜びしそうなシーンですが、インド人観客のウケること、ウケること。隣の席のマダムもひぃひぃ言いながら笑っていました。メイキングで監督もアーミルも大笑いしながら撮影していましたから、こういう単純な下ネタ、大好きなようです。
・イチゴ味コンドーム
このシーンは、やや「ママと一緒に観に行ったから気まずかった・・・」的な感想もあったようです。とは言いつつ、ほんとうにみんな大笑い。
・プルジャリアから言葉転送。
プルジャリアと一晩過ごした後、言葉を発したPKを見て、バイロンはこう言います。
“Memory aur thukai ka koi direct connection hai, ye baat to doctor ko batani chahiye bhaya, majo ke majo aur ilaaj ka ilaaj…”
「記憶と吐き出し(射精=セックス)には、直接的なつながりがあるんだな。このことをドクターに知らせなきゃ、“majoのmajo、治療の治療”だ...」
“majo”という単語が調べきれなかったのですが、making loveの意味のようではあります。ヒンディー語のスラングなのか、ラージャスターン語なのか・・・(バイロンはラージャスターン語をしゃべっています)。ご存じの方、ぜひ教えてください・・・。お願いします・・・。
“majoのmajo、治療の治療”は、ヒンディー語のことわざ、“doodh ka doodh paani ka paani”(牛乳の牛乳、水の水)をもじっています。混ぜ合わさってしまえば判別できない水と牛乳を分別するかのような厳正な裁き、真実を見極める、白黒つける、といった感じの意味です。ここでは、PKとプルジャリアが一晩過ごしたことと、記憶喪失が治ったことにどんな関連があるのか、ドクターに診断してもらおうぜ!という意味になります。
こういう言葉遊び的な笑いもあるので、「ガイジンにはわからない」と言われちゃうのですが、そんなことないんだぜ! 実はインド人(ヒンディー話者)もバイロンのラージャスターン語とかPKのボージプリー語とかは必ずしも完全には理解できていないようです。とはいえ、多少なりともヒンディー語がちょっとでもわかるとずいぶん楽しいので、『PK』日本公開までにレッツ・スタディー・ヒンディー!

『PK』とカビール

『PK』のストーリーをつくり込むにあたって、監督や脚本家がいろいろと資料を参照し、議論を重ねたそうです。おそらくその中核となったと思われるカビールの詩をご紹介。この詩の一部をジャッグーが朗読するシーンは、「未公開シーン」として、特典DVDに収められています。

カビールは15世紀半ば~16世紀初頭の宗教家で、ヴァラナシのイスラーム教徒の機織り工に拾われて育った人物とされていますが、謎の部分も多いようです。その思想はスィック教の開祖グル・ナーナクに影響を与えといわれ、彼の語った言葉、ドーヘーと呼ばれる二行詩は今もインドの中高等学校で学ばれているそうです。500年前の詩が21世紀の現在もリアルに響きます。

いかんせん500年前の詩なので、辞書で調べてもわかんないよ!という単語もありますが、シンプルで示唆に富む詩です。

मोको कहाँ ढूंढ़े बन्दे मैं तो तेरे पास में॥
信者よ、どこに私を探すのだ 私はお前の中にいる

ना तीरथ में ना मूरत में, ना एकान्त निवास में।
ना मंदिर में ना मस्जिद में, ना काशी कैलाश में॥
聖地にも 偶像の中にも 荒野にも
寺院にも モスクにも ヴァラナシにもカイラシュ山にも(私はいない)

मोको कहाँ ढूंढ़े बन्दे मैं तो तेरे पास में॥
信者よ、どこに私を探すのだ 私はお前の中にいる

ना मैं जप मे ना मैं तप में, ना मैं व्रत उपवास में।
ना मैं क्रियाकर्म में रहता, ना ही योग सन्यास ॥
念唱にも 苦行にも 断食にも 私はいない
葬儀にも 遊行にも 私はいない 

मोको कहाँ ढूंढ़े बन्दे मैं तो तेरे पास में॥
信者よ、どこに私を探すのだ 私はお前の中にいる
 

नहिं प्राण में नहिं पिण्ड में, ना ब्रह्मांड आकाश में।
ना मैं भृकुटी भंवर गुफा में, सब श्वासन की श्वास में॥
息にも 宇宙にも 空にもいない
洞窟の奥にも 呼吸にもいない 

मोको कहाँ ढूंढ़े बन्दे मैं तो तेरे पास में॥
信者よ、どこに私を探すのだ 私はお前の中にいる

खोजि होय तो तुरंत मिलिहौं, पल भर की तलाश में।
कहैं कबीर सुनो भाई साधो, मैं तो हूं विश्वास में॥
探し求めれば ただちに出会うだろう その瞬間に
カビールは言う 聞け 修行者たちよ 私は信仰の中にいる 


मोको कहाँ ढूंढ़े बन्दे मैं तो तेरे पास में॥
 
信者よ、どこに私を探すのだ 私はお前の中にいる 


カビールの生涯を語る物語もいろいろとあり、映画もつくられているようです。

 

若さを演じるということ

アーミルは1965年3月14日生まれ、ただいま50歳。ここ数年の出演映画で演じた役柄は、学生だったりマッチョだったり、ボディと演技の極度なつくり込みに驚かされるものばかりです。そこで、近年アーミルが演じてきた役柄について考えてみます。

2005年、40歳以降に公開された出演作と役柄は以下の通り。(公開年なので、撮影時にはもう少し若いことになります)

2005年 40歳 Mangal Pandey フリーダム・ファイター
2006年 41歳 Rang De Basanti 学生、フリーダム・ファイター
2006年 41歳 Fanaa テロリスト
2007年 42歳 Taare Zameen Par 先生
2008年 43歳 Ghajini セレブ、復讐鬼
2009年 44歳 3 Idiots 学生、科学者
2010年 45歳 Dhobi Ghat 画家
2012年 47歳 Talaash 警察官
2013年 48歳 Dhoom:3 サーカス団長、天才金庫破り
2014年 49歳 PK 宇宙人
2016年 51歳 Dangal レスラー(予定)

こうして見ると、LOVE、コメディ、アクション、社会問題を盛り込みつつ、「好奇心を持ち、可能性を信じ、信念を貫き、何かに挑む」役柄が多いように思います。…あ。たった今、『きっと、うまくいく』という邦題が好きになりました。このフレーズ、「挑む人」の精神をうまく表現していますね。「、」が入ることで、本当にうまくいくのかわからない不安な気持ちと、それでも自分の可能性を必死で信じる意志のせめぎ合いが醸し出されています。
もちろん、映画はアートであり、娯楽であり、ビジネスであり、多くの人々が関わるものですから、アーミルの意向が全てではないはずですが、「挑む人」の役を好んで受けている印象を受けます。「挑む人」の物語を組み立てると、結果的にどうしても学生だったり、年齢不詳な若々しい人物だったり、ということになるのかもしれません。

3 Idiotsで学生を演じることになったときのエピソードは、しばしば語られています。さすがに40代で大学生、しかも新入生を演じるのはキビシイ。自分の親戚の男の子の動作や表情を観察して、演技の参考にしたそうです。観察するうちに気づいた若者の特徴の一つは、「ムダな動きが多い=落ち着きがない」ということ。この話を聞いて、改めて3Idiotsを観てみると、確かにランチョーは、ときどき意味不明な動作をしています。そしてそれがやんちゃな男子っぽくてなんともキュート。
私がいちばん好きな仕草は、上映時間1時間10分あたり、コンノートプレイスでのピアと婚約者の腕時計のエピソードの最後の部分。「ラージューのパパが倒れた」という連絡が携帯電話に入り、ランチョーは右手に携帯電話を持ち、通話をしながら左手でショルダーバッグのストラップをしゅしゅっと上下にさすります。…この仕草、なーんにも、意味がありません。ただ、かわいいだけ。また、若々しさの秘訣として、毎日お水を3リットルだか5リットルだか飲んでいたらしいのですが…。本当か。『きっと、うまくいく』は、近日、マサラ上映がありますので、皆さん、久しぶりに行っときましょう〜。ストラップのシーンで一緒に「しゅしゅっ」とやるのだ!(地味マサラ。)シネマート六本木、6月13日(土)です。
http://www.cinemart.co.jp/theater/roppongi/index.html

そして最新作PKを演じるにあたっては、末っ子のアーザードちゃん(2歳くらい)を参考にしたそうです。生まれて初めて目にするものや口にするものに対する反応が、地球で初めて接する物ごとにおっかなびっくり反応するPKの姿に移送されました。目をかっ開いて、身体を硬直させ、それでも好奇心ゆえ、離れられない…。パーンやにんじんなど、気に入ったものを延々と食べるところもかわいい。ああ、PKに「にんじん、もいっこちょうだい」と言われたい。aur ek gajar de doだね! 
そんなPKも、母星に帰ればエリート宇宙飛行士のはずなんだけどね…!

『PK』妄想後日譚

涙を押し隠してジャッグーと別れ、母星へと帰っていったPKですが、1年後、再び地球を訪れます。…意外と早かったね! 電池、使いきっちゃったのかな?
ラストシーンでは、アーミル演じるPKとランビール・カプール演じるお仲間の上半身しか映し出されていませんが、PKの肩にはストラップがかかっています。あのラジカセ、持って来てるよ…! ジャッグーの声を再録する気マンマンです。母星の記録媒体使ったほうが電池に苦労しなくていいんじゃないの、とも思いますが、「地球の音は地球の媒体で録音するに限る!」とかこだわりがあるのかもしれません。

まんまと地球再訪に成功したPK。あの後、どこへ行ったのでしょう。まずは、マンダワーのバイロン・スィン楽団へ行って、楽団仲間と奥さんに挨拶。その後は、デリーへ一直線。途中でテレビが見られたら、ジャッグーのニュース番組をチェックしてニヤニヤ。デリーでジャッグーと再会して、驚いたジャッグーにぎゅうぎゅうハグされて握手。そして、サルファラーズと幸せに暮らしていることを読み取って、ひと安心…。と同時に、隠していた自分の気持ちや「カセットテープの嘘」がまるっとバレてることに気づいて、驚愕し、今まで感じたことのない感情に慌てふためくんだろうな。しかも初めて顔を合わせるサルファラーズと握手したら、やっぱり全部知られてるし、すでにこっそり録音を始めているラジカセを見られちゃったりして、もう、たいへん。

前回の調査では「嘘をつくこと」を学んだけれど、今度は「嘘を見破る方法と見破られた時の対処方法」を学ばなきゃいけないかもね!

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アーミル・カーン(『きっと、うまくいく』のランチョー、『チェイス!』のサーヒル)のファンです。 アーミル主演、2014年12月インド公開の映画『PK』は日本未公開ですが、ネタバレをブログに書いています。 アーミルとPKに興味のない方は、積極的にブロック、RTブロック、ミュートなどしてくださいね!
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