モンゴルを研究フィールドとする言語学者である大学教授の、こんな逸話を聞いたことがあります。ある時、学生達と某湖畔で合宿をしていたのですが、一部の学生がバイトか何かで遅れて合流することになりました。予想以上に到着が遅れ、その合宿所に夜遅く到着したところ、管理人さんに「規定のチェックイン時間を過ぎているから、入館できない」と門前払いをくらい、仕方なく車のなかで一夜を過ごしたそうです。翌朝、学生から事情を聞いた教授、「モンゴルでは旅人を泊めなかったら死刑なんだぞ!」とキレまくったとか。
この話を聞いた時には、合宿所の管理人さんにモンゴルの話をしてもしょうがないだろうに…と腹を抱えて笑ったものですが、いま思うと、教授の意見ももっともかなあ、と。
遊牧民にとっては、雨風をしのぎ夜を過ごす屋根と食料を確保するのは命がけです。宿や食料を求める客人を寛大にもてなすのは、義務であり、美徳でもあります。(参考文献『砂漠の文化』堀内勝、など)

さて、PKを車ではねちゃったバイロン。PKが何も覚えていない様子なので、一瞬、悪い考えが頭をよぎったようですが、結局、PKを楽団に迎え入れて面倒をみます。ラージャスターンの砂漠を旅する楽団としては、そうせずにいられなかったのかもしれません。そんなバイロンに、卵から孵ったヒナが初めて目にしたものを母親として認識するようになついたPK。地球に来てから初めて親切にしてくれ、言葉をかけてくれた人物ですから、バイロンに対する感情的な結び付きは特別だったと思われます。
そんな、大切なバイロンを失ってしまった…。PKの悲しみはどんなに深かったでしょう…。静かに、涙を流し、毅然としてタパスヴィーと対峙し、もう一人の大切な人、ジャッグーを守ったPK。
『PK』、ラストの20分ほどは何度観ても「ほげえぇぇあぁぁぁ」と奇声を発しながら号泣せずにいられません。