中国に先立って台湾で公開された『PK』は、タイトル『来自星星的傻瓜PK』(星から来たオバカPK)というタイトル、英語と台湾語の二重字幕、カットなしで上映されました。
一方、中国大陸版では『我的个神啊 』(Oh My Only God!)というタイトル、吹き替え(歌の部分だけ字幕)、15分ほどカットされたバージョンでした。
◆吹き替えについて
海外の映画について字幕がよいのか吹き替えがよいのか、一長一短で、なかなか難しいところです。マレーシア(英語とマレーシア語の二重字幕)、台湾(英語と台湾語の二重字幕)、DVD(英語字幕)、中国(吹き替え)、と観てきた中で、今回の『PK』の場合の長所短所を考えてみました。
■吹き替えの長所/字幕の短所
・字幕だと画面の下の部分ばかりに目が行って、画面全体に目が届かないのは確かです。中国語はあまりわからないので、脳内で台詞を再生しながら、視線はリラックスして、画面全体を見ることができました。字幕版だからと言って、さほど見落としがあったわけでもないのですが、役者さんだけでなく、背景の風景だとか、小物だとか、空模様だとかも楽しむことができたように思います。
・PKは、ヒンディー語ではなく、ボージプリー語をしゃべっているので、いちばん最初に言葉を発するシーンで、「なんだこのひどい訛りのヘンな恰好(黄色ヘルメット)をしたやつは」という印象を受けるのですが、字幕では訛りが反映されないので、そこらへんの面白味を享受することができません。こればっかりは、外国人としてはつらいところです。中国語の吹き替えでは、PKは普通話(北京語=中国の標準語)ではなく、なんだかえらく訛ったしゃべり方をしていたようです。PKの最初の台詞で、観客がおおいにウケていました。
■吹き替えの短所/字幕の長所
・役者さん本来の声が聞けないこと。これはつらい・・・。アーミルが好きで映画を観ているのに、アーミルの声が聞こえないなんて・・・。ただし、吹き替えをした王宝強(ワン・パオチアン)さんは、なかなか上手で、PKの年代とか背格好とかキャラクターにぴったりの声でしたし、息遣いなども元のままにうまく再現していました。王宝強さんがどういう役者さんか、存じ上げないのですが、中国人の間では「えーーー王宝強、最悪!!」 という反応が多かったのですが、何も知らない第三者からすると、とてもよい吹き替えだったと思います。
しかしながら、ジャッグーの吹き替えはまずかった・・・。アヌシュカーは、わりとはっきりとした低音ボイスで、自立した強い女性という印象を受けるのですが、中国語吹き替えでは、妙に甲高い、「友近のキャサリン」のような、宙に浮いたような「ザ・吹き替え」という印象の声でした。これは本当に残念。そしてサルファラーズの声もまた残念。わりと悪くない声の方でしたが、ラージプート・スシャント・シンの独特の、かすれ声というか鼻声というか微妙なセクシーボイスは再現することができません。ラホールからの電話の、渾身の「ジャッグー・・・!」。あの声が聞けないのは、大きな損失です。
・元の声と一緒に、他の音まで消されている。PKがパーンを噛む「もっもっ」という音や、ちょっとした息遣いがどうしても消えてしまっています。
・内容がかなり改変されてしまうこと。マレーシアでも、台湾でも、観客がウケる部分は共通していました。しかしながら、中国ではかなりずれていた・・・。これは「吹き替え」というより「翻訳」の問題なのかもしれませんが。
◆カットシーンについて
『チェイス!』が主演アーミルのいちばんの見せどころのダンスシーンをカットしたのは記憶に新しいところです。というか、一生忘れません。正直、「インド映画は長いのでカット」というのは、ある程度は仕方ないかなーと思ってもいるのですが、『PK』中国版のカットは本当に致命的にダメです。『チェイス!』以上に最悪です。まさか、このバージョンが日本にやって来ないことを願って、詳細を書き留めておきます。
・「Tharki Chokro」カット。
バイロンが記憶喪失(だと思った)のPKを楽団に迎え入れて、「まったく変わり者のかわいいお客さんだね!」という歌詞の歌です。ラージャスターン風の音楽が楽しいし、ストーリー的にもバイロンとPKの絆が深まる様子を描く楽曲です。ここをカットしてしまっては・・・。のちにバイロンを爆破テロで失ったPKの悲しみの深さが伝わらなくなってしまいます。また、バイロンがTV局に電話をして「よお、変人さん、元気かい?」という台詞があるのですが、この台詞の元ネタとなる歌詞でもあるので、「Tharki Chokro」をカットしてしまってはストーリーが台無しです。
・「Automatic Battery Recharge」~「Love is a waste of time」カット。
ジャッグーがパパから「お前は恥だ」というメールを受け取るシーンからざっくりカットされています。嘘でしょ・・・・・・・・・・・。
「10年生の時、詩を朗読して、パパがいつまでも指笛を吹いていた」という台詞がカットされるので、ラストのジャッグーの朗読会でパパが指笛をならすことの意味が失われます。
またさらに、「Automatic Battery Recharge」のかわいらしくて愉快なダンスをカットするなんて・・・。またこの曲の後半から「Love is a waste of time」にかけて、PKがじわりと
ジャッグーに恋をする過程が見えなくなってしまっては、PKがどんな思いでジャッグーとサルファラーズの再会を手助けしたのか、地球を去るときに「時間の無駄づかいはしてられないよ」と、どんな気持ちで言ったのか、まったく入り込めません。「PK」は宗教について切り込んだ作品ですが、難しい話ではなくて、「宗教とは、人が愛する人とともに過ごす幸せと、生きる勇気を支える存在であるべきではないのか」という「愛」がテーマになっていると考えます。
そんなテーマの作品なのに、「愛」を表現する部分をカットしてしまったら何の意味があるんでしょう。
以上が、中国版の大きな特徴です。中国では「カットされとる!!!」と騒いでいる人は、正直、1人も見かけません。みなさん、おそらく違法ダウンロードでオリジナル版を観ているはずなんですが・・・。中国版『DHOOM:3』(『幻影車神』)について聞いてみたところ、どうやら『チェイス!』より多めに、楽曲はほぼ全部カットされていたということです。中国の『DHOOM:3』は、「インターナショナルバージョン」と称していたのを見かけた記憶があるのですが、あくまで「中国版」だったようなので、日本には中国と同じ尺の『PK』が来ないであろうと願っています・・・。
ああ、どうか、カット版が日本に来ませんように・・・!
一方、中国大陸版では『我的个神啊 』(Oh My Only God!)というタイトル、吹き替え(歌の部分だけ字幕)、15分ほどカットされたバージョンでした。
◆吹き替えについて
海外の映画について字幕がよいのか吹き替えがよいのか、一長一短で、なかなか難しいところです。マレーシア(英語とマレーシア語の二重字幕)、台湾(英語と台湾語の二重字幕)、DVD(英語字幕)、中国(吹き替え)、と観てきた中で、今回の『PK』の場合の長所短所を考えてみました。
■吹き替えの長所/字幕の短所
・字幕だと画面の下の部分ばかりに目が行って、画面全体に目が届かないのは確かです。中国語はあまりわからないので、脳内で台詞を再生しながら、視線はリラックスして、画面全体を見ることができました。字幕版だからと言って、さほど見落としがあったわけでもないのですが、役者さんだけでなく、背景の風景だとか、小物だとか、空模様だとかも楽しむことができたように思います。
・PKは、ヒンディー語ではなく、ボージプリー語をしゃべっているので、いちばん最初に言葉を発するシーンで、「なんだこのひどい訛りのヘンな恰好(黄色ヘルメット)をしたやつは」という印象を受けるのですが、字幕では訛りが反映されないので、そこらへんの面白味を享受することができません。こればっかりは、外国人としてはつらいところです。中国語の吹き替えでは、PKは普通話(北京語=中国の標準語)ではなく、なんだかえらく訛ったしゃべり方をしていたようです。PKの最初の台詞で、観客がおおいにウケていました。
■吹き替えの短所/字幕の長所
・役者さん本来の声が聞けないこと。これはつらい・・・。アーミルが好きで映画を観ているのに、アーミルの声が聞こえないなんて・・・。ただし、吹き替えをした王宝強(ワン・パオチアン)さんは、なかなか上手で、PKの年代とか背格好とかキャラクターにぴったりの声でしたし、息遣いなども元のままにうまく再現していました。王宝強さんがどういう役者さんか、存じ上げないのですが、中国人の間では「えーーー王宝強、最悪!!」 という反応が多かったのですが、何も知らない第三者からすると、とてもよい吹き替えだったと思います。
しかしながら、ジャッグーの吹き替えはまずかった・・・。アヌシュカーは、わりとはっきりとした低音ボイスで、自立した強い女性という印象を受けるのですが、中国語吹き替えでは、妙に甲高い、「友近のキャサリン」のような、宙に浮いたような「ザ・吹き替え」という印象の声でした。これは本当に残念。そしてサルファラーズの声もまた残念。わりと悪くない声の方でしたが、ラージプート・スシャント・シンの独特の、かすれ声というか鼻声というか微妙なセクシーボイスは再現することができません。ラホールからの電話の、渾身の「ジャッグー・・・!」。あの声が聞けないのは、大きな損失です。
・元の声と一緒に、他の音まで消されている。PKがパーンを噛む「もっもっ」という音や、ちょっとした息遣いがどうしても消えてしまっています。
・内容がかなり改変されてしまうこと。マレーシアでも、台湾でも、観客がウケる部分は共通していました。しかしながら、中国ではかなりずれていた・・・。これは「吹き替え」というより「翻訳」の問題なのかもしれませんが。
◆カットシーンについて
『チェイス!』が主演アーミルのいちばんの見せどころのダンスシーンをカットしたのは記憶に新しいところです。というか、一生忘れません。正直、「インド映画は長いのでカット」というのは、ある程度は仕方ないかなーと思ってもいるのですが、『PK』中国版のカットは本当に致命的にダメです。『チェイス!』以上に最悪です。まさか、このバージョンが日本にやって来ないことを願って、詳細を書き留めておきます。
・「Tharki Chokro」カット。
バイロンが記憶喪失(だと思った)のPKを楽団に迎え入れて、「まったく変わり者のかわいいお客さんだね!」という歌詞の歌です。ラージャスターン風の音楽が楽しいし、ストーリー的にもバイロンとPKの絆が深まる様子を描く楽曲です。ここをカットしてしまっては・・・。のちにバイロンを爆破テロで失ったPKの悲しみの深さが伝わらなくなってしまいます。また、バイロンがTV局に電話をして「よお、変人さん、元気かい?」という台詞があるのですが、この台詞の元ネタとなる歌詞でもあるので、「Tharki Chokro」をカットしてしまってはストーリーが台無しです。
・「Automatic Battery Recharge」~「Love is a waste of time」カット。
ジャッグーがパパから「お前は恥だ」というメールを受け取るシーンからざっくりカットされています。嘘でしょ・・・・・・・・・・・。
「10年生の時、詩を朗読して、パパがいつまでも指笛を吹いていた」という台詞がカットされるので、ラストのジャッグーの朗読会でパパが指笛をならすことの意味が失われます。
またさらに、「Automatic Battery Recharge」のかわいらしくて愉快なダンスをカットするなんて・・・。またこの曲の後半から「Love is a waste of time」にかけて、PKがじわりと
ジャッグーに恋をする過程が見えなくなってしまっては、PKがどんな思いでジャッグーとサルファラーズの再会を手助けしたのか、地球を去るときに「時間の無駄づかいはしてられないよ」と、どんな気持ちで言ったのか、まったく入り込めません。「PK」は宗教について切り込んだ作品ですが、難しい話ではなくて、「宗教とは、人が愛する人とともに過ごす幸せと、生きる勇気を支える存在であるべきではないのか」という「愛」がテーマになっていると考えます。
そんなテーマの作品なのに、「愛」を表現する部分をカットしてしまったら何の意味があるんでしょう。
以上が、中国版の大きな特徴です。中国では「カットされとる!!!」と騒いでいる人は、正直、1人も見かけません。みなさん、おそらく違法ダウンロードでオリジナル版を観ているはずなんですが・・・。中国版『DHOOM:3』(『幻影車神』)について聞いてみたところ、どうやら『チェイス!』より多めに、楽曲はほぼ全部カットされていたということです。中国の『DHOOM:3』は、「インターナショナルバージョン」と称していたのを見かけた記憶があるのですが、あくまで「中国版」だったようなので、日本には中国と同じ尺の『PK』が来ないであろうと願っています・・・。
ああ、どうか、カット版が日本に来ませんように・・・!